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海外転職の先にある、キャリアと生き方

第10回:吉田健人さん(エンジニア)

海外就職体験談 2022-03-10

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海外にあるエンジニアのブルーオーシャン。
自分の価値を上げるため、
バンコクの地に飛び込んだ




エンジニア
吉田健人(よしだ・たけと)さん


1990年生まれ。早稲田大学、情報理工学専攻。新卒から約3年間、日本経済新聞社でiOSエンジニアとしてアプリの開発に従事する。2018年にタイ・バンコクの自動車関連商社へ転職。会社のDX化やアプリ開発など幅広いプロジェクトを推進した。2021年、日本に戻りコンピュータ・ソフトウェア会社「Adobe」にソフトウェアエンジニアとして入社した。





《世界で通用するエンジニアになる》吉田さんの目標は明確だ。そのために、日本の“大手企業”のエンジニアという立場を離れ、バンコクの地に飛び込んだ。そこから約3年間、バンコクの自動車関連商社で働くことになるが、30歳を目前に日本に戻ってからは着実にご自身の目標に近づいているように思う。バンコクでの経験は、今にどう生かされているのだろうか? 日本戻り新たな場所で活躍する吉田さんに、当時のことを振り返っていただいた。


***


異なる環境に飛び込むことで、
   自分の価値を引き上げる


2018年から3年間、タイでエンジニアとして働いていました。ただ、私が海外転職した経緯は、他の方とはちょっと変わっているかもしれません。タイに行くきっかけになったのは、友人がタイの商社に出向していたことでした。その彼は、現地で働く中で業務全体の「デジタル化」が大きな課題だと考えて、エンジニアを探していたんです。それで僕のもとに話が来ました。

当時の僕はというと、日本経済新聞社という会社でiOSエンジニアとして働いていました。スマホやタブレットで紙面が見れるアプリなどを開発するのが主な仕事です。やりがいはありましたし、待遇にも満足していました。同僚や上司にも恵まれていたと思います。でも、社会人になり視野が広がったことで《世界で通用するエンジニアになりたい》と思うようになり、漠然と海外に興味を持つようになっていました。

そのタイミングで友人からバンコク勤務のオファーをもらったので、悩まず首を縦に振りましたね。他のエンジニアとは異なる環境に行くことで、自分自身の価値を引き上げるチャンスになるかもしれないと考えたんです。
また、バンコクへは何度も旅行に行っていて、それも転職を後押ししました。過ごしやすい国だと感じていましたし、勢いのある街の雰囲気が好きでした。「タイに住んだら自分はどう変化するんだろう?」「新しい体験ができるかもしれない」って、好奇心を刺激されて、そのワクワクに突き動かされた感じです。




タイではナイトイベントが人気。タクシー料金が安価なので、終電を気にせず遊ぶことができるのも魅力だ



チームに日本人はひとり、
   プロフェッショナルとして働いた

バンコクでは自動車関連の商社に入社しました。当初話に聞いていたように、業務のデジタル化に課題があって、やるべきことは沢山ありました。まず最初に取り掛かったのは、各部署で個別に管理されていた顧客データを、ひとつのシステムに統合することです。それまでは重要なデータが、エクセル上で管理されていたんです。そのせいでマーケティングが上手くできていない側面がありました。

入社してすぐ、そのプロジェクトを開始したんですが、風当たりはありましたね。これまでやってなかったことを始めるわけですから、それは仕方がないことだと思います。でも、その雰囲気が変わるのは意外と早かった。システムを作ってすぐ、マーケティングでも成果が表れ始め、そこから周りの空気が一気に変わりました。現地のエンジニアたちも自分についてきてくれるようになって、その次からはよりスムーズに動けるようになった。

その後も課題を見つけては、新たなプロジェクトを立ち上げていく――。その繰り返しです。自分にできる事なら何でもやりました。もちろんすべてがスムーズに進むわけではなかったですが、他のスタッフの業務が間に合ってなければフォローをしたり、代わりに請け負ったり。ですが、それをストレスに感じるほどではなかったですよ。

エンジニアチームに日本人は僕ひとり。もちろん僕とタイ人スタッフとでは待遇面が大きく異なります。それに見合った働きをするのは当然なことです。自分がプロフェッショナルという立場に立って仕事ができるのはありがたいことですし、やりがいにも繋がっていたと思います。プロジェクトが上手くいったときは、これまで以上の喜びを感じることができますから。




バンコクのナイトマーケット。雑貨や衣類、飲食店が立ち並び、旅行客や地元客で賑わう



「コードで会話ができる」ことは、
   エンジニアの大きなアドバンテージ


海外で働くうえで、現地スタッフとのコミュニケーションは大切です。僕の場合、タイ人エンジニアとは英語で会話していました。お互い第2言語だったこともあり、上手く伝わらないこともしばしば。ただ、エンジニアは「コードで会話ができる」と言われています。実際、お互いのコードを見れば何をしたいのかは理解することができる。これは、エンジニアが海外転職するうえで大きなアドバンテージかもしれませんね。

また、日本とタイとでは仕事に対する考え方や進め方が異なります。日本では阿吽の呼吸で理解していたことを、ひとつひとつ言葉で説明する必要がありました。僕の場合は、スタッフ一人ひとりのタスクを明確にして、できていないところはケアしたり、進捗状況を確認することを意識していました。国が違えば仕事の進め方が違うのは当然です。その分、密にコミュニケーションを取ることが大切だと考えています。

そんな風に外国人ばかりの環境にひとりで飛び込んだことは、自分の成長に繋がったんじゃないでしょうか。英語での会話はもちろん、個人プレーヤーとしてだけでなく、大きな視野をもって仕事ができるようになりました。また、異なるバックグラウンドを持つ人と”チームになれる“ことは、僕の大きな強みです。




タイではリゾートホテルにリーズナブルに宿泊できる。休日の気分転換にも利用していた



30代に差し掛かり、
   自分自身の「市場価値」が気になった

バンコクでの仕事はとてもやりがいがあったんですが、30代に差し掛かった頃、自分自身の「市場価値」が気になるようになってきました。会社では成果を出していましたし、マネージャーとしての能力も上がりました。でも“いちエンジニア”として、どれくらい評価されるだろうか?――と気になるようになったんです。 それに、これまで勤めていたのは日経新聞と自動車関連商社の2社。事業会社でのみ働いてきたので、いちどはテック企業で働いてみたいと思うようになりました。決して事業会社のエンジニアが劣っているとは思いませんが、自分自身の場合は人から学ぶ機会が少なかったせいで「井の中の蛙」になってしまうのでは、と不安に感じたんです。

そこから転職活動を始めたんですが、正直なところかなり苦戦しましたね……。外資系IT、内資大手Web系、幅広く受けたんですが、そう簡単に内定はもらえませんでした。タイでは会社にとって必要ことは何でもやってきた分、フロントエンド、バックエンド、データエンジニアリング、マネジメント……業務が広範囲になっていたんです。「ジェネラリスト」としては高い評価をいただけたんですが、とある企業からは「良いエンジニアだが、この求人では特定分野のスペシャリストを探している」と言われてしまいました。
「ジェネラリスト」と「スペシャリスト」のどちらが優れているのか――という話ではなく、転職においては、自分のキャリアとその求人がフィットしているのかどうかが重要なのだと改めて気づかされました。

一方でコンサル企業からの評価は高くいただけて、一時はその道も考えました。それでも《世界で通用するエンジニアになりたい》という考えは変わらず……。やっぱり、エンジニアとしてチャレンジングな環境に行きたくて、内定は辞退しました。 転職活動が3ヶ月ほどたっていよいよ焦ってきたときに、希望していたテック企業から内定をいただけたんです。現在勤務しているコンピュータ・ソフトウェア会社「Adobe」からでした。僕が幅広く業務を行ってきたことや、外国人とともにプロジェクトを立ち上げてきたことを評価してもらえたようです。ギリギリのところで、最も希望する企業から内定をいただけたのは、本当に幸運だったと感じています。




タイには5つの世界遺産がある。少し足を延ばして遺跡巡りをするのもタイで暮らす楽しみのひとつだ



海外で働いた後のイメージを
   事前に持っておくことが大事

タイでの経験がなければ、現在の会社に入社することはなかったでしょうから、僕にとって海外転職はベストな選択だったと考えています。今後は、現在の会社でも評価されるよう結果を積み上げていきたいです。

ただ、僕の場合はたまたま海外転職が上手くいっただけで、他の方にとってどうなるかは正直わかりません。僕の海外転職でひとつ失敗だったことを挙げるとするなら、それは「プランが甘かった」ということです。事前に海外で働いた後のことを見据えていたら、タイから日本に戻る前に焦ることはなかったかもしれません。 これから海外転職を目指すのであれば、海外で働いた後のイメージを持っておくことをお勧めします。そして、海外転職をすることで自身のキャリアの最終ゴールに近づくと思うのであれば、挑戦したほうが良いのだと思います。

日本からタイへ行くエンジニアは、まだそれほど多くありません。日本で得たスキルを最大限発揮できる環境があると思います。自分自身のブルーオーシャンを見つけることができれば、それは日本に戻ったときにもきっと活かされるはずです。






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